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東京家庭裁判所 昭和34年(家)5777号 審判

申立人 野上栄次郎(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は、栄次郎という名であるが、昭和五年頃から栄亮という通称を使用して今日に至つているので、栄亮と改名することの許可を求めるというものである。

当裁判所の調査の結果によれば、申立人は、昭和五年頃から、「榮亮」または「栄亮」の通名を使用して、会社役員として活動し、薪炭商を営み、その他日常の社会生活をしてきたものであつて、戸籍上の「榮次郎」という名では申立人の社会生活は不便を感ずる程度になつているものであることは認められる。

ところが、「榮」という字は、戸籍法第五〇条の子の名に用いることができる常用平易な文字として定められているものとしては、「栄」の字に当るものであつて、「榮」の字は常用平易な文字としては指定せられていない。そして「榮」と「栄」とは、本来同じ字であつて、その読み方も同じであるから、申立人が、「栄亮」と改名するのならば、まさに正当の事由があるものと思料するのである。

しかるに、申立人は「榮」と「栄」とは字劃が異ることと、従来「榮」の字を通用していることを理由として、是非「榮亮」と改名することを希望するのである。

しかしながら、戸籍法第五〇条は、子の命名に関する規定ではあるが、名に常用平易な文字を用いるという精神は、改名の場合にも尊重せられなければならないものであつて、特別の理由がない限り、常用平易な文字以外の文字を用いて改名することは避けなければならないものと思料するのであるが、前にも述べたとおり、すでに「榮」の字と本来同じ字であつて、その読み方も意味も同じ「栄」の字が使用できることになつている以上字劃が異るからということでは、わざわざ常用平易な文字として指定せられていないところの「榮」の字を使用して改名しなければならない程の特別の理由とはならないものである。また申立人は「榮」の字を通用してきたというけれども、申立人が疏明として提出したハガキ類を見ても「栄亮」として通用していたこともまた明らかであつて、申立人の通名が必しも「榮」の字に統一されていたとも認められない。

以上の理由により、必ず「榮」の字を用いて改名しようとする本件申立は、正当な事由に乏しいといわざるを得ないので、主文のとおり却下の審判をする次第である。

(家事審判官 河野力)

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